進研ゼミ漫画の感想(11D107-M)

当たりの進研ゼミ漫画を引いたので感想を書きます。

いつもメルカリで販売頂きありがとうございます。
人生が希望と幸福に満ちた中高生や主婦の方はぜひ出品して幸せのおすそ分けをして下さい。


今回引いたのは「11D107-M」

「11」の下1ケタは①なので1年生向け。
「107」の下1ケタは⑦なので締切は7月です。
末尾のアルファベットは全然検討も付かない。
DはDAWNのDです(ワンピース考察本)。


この漫画の魅力は
・巧みな構成と演出

これだけです。
奇を衒わずに裸一貫で勝負しています。
シンプルなのに読み口がアーキタイプと全然違う。
詳細を以下でご紹介します。

【つかみ】

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まず前提として、進研ゼミ漫画のつかみは2種類に大別できます。
「無難」「挑戦」です。

・無難
1ページ目にモノローグで自己紹介をかます作品。
例:「オレ、〇〇」「〇〇、中1、サッカー部」
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大抵の場合時間軸が現在から始まるので、展開がテスト返却か部活の失敗シーンにシフトしていく。これは漫画がつまらない原因の一つです。

進研ゼミの漫画なんて家に届いた時点で殆どの読者は展開の予想なんてついてるわけですから、それを裏切るもしくは想像以上の何かしらでフックが欲しいですよね。
このタイプの作品は大体がアーキタイプでありそのまま終わる。

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・挑戦
それ以外の漫画。念能力でいえば特質系です。
数が少ないが個性的な内容となる漫画が多い。
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「挑戦」してる漫画には傑作が多いです。
この統計には結構自信があって例えば以前ご紹介した「加藤マミコ」「矢沢紅葉」「カズキ」等は挑戦者です。

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加藤マミコは写真が無いですがイケメンから告白される夢で始まるし
矢沢紅葉は叫んで読者の気を引いてますね。次のページではキャラ立ちした委員長も出現します。
カズキも気になる始まり方です。この1ページ目は伏線にもなってます。

つかみの挑戦は傑作への第一歩です。

大正コソコソ噂話
「無難」で面白い作品もあったと思うけどほとんど実家に置いてきたから資料も記憶も無いよ。

この2種類を念頭に置きこの作品のつかみを読んでみると
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・1ページ目 モノローグ無し(挑戦者なので期待できる)
・2ページ目 「花見ができないけど花見神社」という本来必要のない一文(フック)
・3ページ目 ようやく出る自己紹介、謎の声(フック)
と読者を引き付ける要素が3ページまでに3つも出現します。

悩み祈る主人公、こいつは誰なんだと主人公に対する関心を引き付けてからの自己紹介。
これが逆だったらハイハイ主人公の成績が悪くて悩んでるんでしょ、いつもの展開ね、と目が上滑りします。

【本編】

つかみでグッと作品への関心が高まった後は4ページ以降に続きます。

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過去!(千鳥ノブ)

通常5ページまでには学校関係の描写が何かしら出るのが一般的です。
テストだったり部活だったり友人やライバルの紹介でもいいんです。
でもこの漫画では主人公の過去と夢、思い出詰まった神社の工事が描写されるんですね。
しちゃいますよね、感情移入。

その後の6~9ページでは自宅学習・テストの失敗が描写され9ページ目にしてようやくヒロインが出ますが
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かなり空気です。

次ページでは下校途中に工事の真相が判明します。
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夢が現実味を帯びだしてきます。

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ここも「挑戦」してると思います。
家庭内の描写が何かジメっとしてるんですよね。

家族からの小言は他作品でもよくある展開だけど
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大体こんな風に「母親」、「ギャグ顔」or「怒鳴ってどっか行く」がアーキタイプになるんですが当該作品では「酔った父親が専用フォント&手書きでボソッと」小言を言うんですね。
それに対し主人公も「…わかってるよ(ボソ)(目線暗い)」と湿っぽい反応をする。画面も暗いし。
クリントイーストウッドさんの映画みたいですね。

アーキタイプな展開でも工夫して読者の頭に残るような演出になってます。


そして15~19ページでようやく具体的な受験対策の話が出てきます
ヒロインもやっと出番が来る。
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階段座って夕日見ながら「お前の才能もったいないよ」って言われて「…」ってなるシーン尊みが深すぎて妊娠しちゃう。
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恋愛脳のヒロインに目もくれず夢に向けて走り出す主人公。
エピソードが積み重なっていきます。

そしてノルマである親の説得シーン

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親父!(千鳥ノブ)
普通説得シーンは母親が担当するんですけど本作では父親が出てきます。
絶対原作者がズラしてきてると思うんですよね。ズラシは5巻打ち切りのサムライ8でも使われた高等テクニックです。

母親は泣いているのがポイント高い。
そして「約束も守りたいし」の吹き出しを「約束も」「守りたいし」と二つに分けているのもポイント高い。
会話の間をね、間を演出してるんですよ。

例えば三巷文さんという激エモエロ漫画家(今は違う)の作品で一番好きな『スペアキー』って作品があるんですけど
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一番最後の「一緒に帰るの嫌だった」と「もう…」が二つに分けられてることで間が演出され二人の空気感が表現されてるんですよね。
表現されてるのかは知らんけど僕はそう受け取ってます(ニチャア)
※ヒロインは極端な無口という設定

こういうちょっとした演出のおかげでキャラに生気が出てると思う。
キューブリック信者みたいになってますかね。

23~28ページは怒涛の宣伝パートが続くが小ネタを入れ読者離れを防ぐ工夫が見られる。
作画のアドリブでしょうか。
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29ページからはゼミの宣伝を入れつつ縦軸のエピソードが進んでいく。

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山場です。

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先パイの熱い自分語りと地元民の盛り上がりで主人公の夢が超具体化する。
花火がそれを盛り上げて「花見神社」という名前の由来(伏線)を回収する。
序盤のフックとして使ったモノローグを綺麗に回収しててこれは普通に感心しました。
エモーショナルですね。

個人的に夏祭り回が好きという贔屓目は大いにあるんですけど、それにしても演出が凝ってると思いませんか?塗りが綺麗だからですかね。


最後にダメ押しでもう1エピソード挿入されます。
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父親がここまでフォーカスされる漫画は記憶に無い。
画面を暗くする演出も雰囲気出てかなりイケてる。

そしてラスト
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完璧に決めました。
カーテンがはためいて陽光が差して両親の為に作った設計図がしっとり描写されて終わるのマジで幽遊白書の最終回すぎて好き。
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この漫画の雰囲気だったらラストは
「さあ、次はキミの番!(主人公こちらに手を伸ばす)」とか
「今すぐ合格への一歩を踏み出そう!(掲示板見て笑顔の主人公)」
とかじゃないんですよね。原作はよく分かってる。

ノローグも「この夏なりたいキミに近づいてほしい」からの
「進研ゼミがきっときっかけになります
と最後だけ丁寧語になってるのも雰囲気に合わせてて謎のカタルシスがある。

気配りが細やかすぎる。

【まとめ】

「主人公が夢に向かって頑張る」という基本のコンセプトはアーキタイプと同じですが勉強に、恋愛に、部活にと欲張らずこの作品は「夢」にだけスポットを当てたことで宣伝以外のエピソード部分に多くのページを使えています。

神社の改修をきっかけに主人公の行動理由がどんどん明確化していく軸のある構成とそれを支える演出(伏線、花火、部屋の明暗、父親のフォント、間を表現する吹き出しや小コマ)が緻密なので没入感が非常に高い作品でした。
序盤の神社の声は回収して欲しかったですけど。

アカデミー賞で言えば作品賞、脚本賞助演男優賞(親父)、視覚効果賞の4部門獲得です。

ちなみにこの作者は前に紹介した左の作品で
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右の原作に鬼の演出と伏線回収を追加したことで脚色賞を獲得し

この作品で

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秋元康をバカにしたキャラクターを生み出したことでメイクアップ&ヘアスタイリング賞およびパルムドールを獲得している。

絵は別に上手くないけど革新的な作品を作り続けてるのでめちゃめちゃ好き。
アクション上手くないけど映像と話が面白いクリストファーノーラン監督みたいな存在ですかね。
ニワカの発言をしてしまい申し訳ございませんでした。

ここまで読んで頂きありがとうございました。